デーヴ・グロスマン 著、安原和見 訳『戦争における「人殺し」の心理学』ちくま学芸文庫(筑摩書房)

仏像評価 8.5
著者は米軍陸軍中佐にして大学教授。
戦争で人殺しをする時、人はどんな心境になるのか、と思い本書を衝動買い。
私が期待したほど戦争における「個人」の話ではなく、「兵士」の話でした。それでも興味深い内容でしたが。さすがは戦争をいつもやっている軍事大国の軍人による研究書だけあって、現実味を感じる内容。
本書では「なぜ兵士は人間を殺すのか」と同じくらいに「なぜ兵士は人間を殺さないのか」ということが問題とされます。「やらなければやられる」という状況になればさすがに人間を殺すだろうという安易な考えでは、本当に「やらなければやられる」状況になってもなかなか人間を殺せないそうです。
第二次世界大戦までは15〜20%だった兵士の発砲率が、ベトナムでは90%以上になったというのは「へぇ」でした。「条件づけ」を取り入れた訓練の成果だそうです。上官からの命令があれば(これは重要です)、兵士はそれに忠実に敵を撃つようになりました。
兵士が敵を殺さないことが重大な問題となっていたのは近接戦闘の場だけであって、砲兵や爆撃機搭乗員は第二次世界大戦以前からしっかりと自分の仕事を効率よく果たしていたとのことです。敵との「距離」がここでは問題になります。敵がスコープ越しだとか、戦艦だとか、建物だとか、「人間」を感じることが少なくなればなるほど殺しは容易になっていきます。
国家の命令に忠実に従って敵を殺してきた帰還兵をどう扱うべきか、ということも、第二次世界大戦ベトナム戦争を比較して語られます。この話では著者の「兵士」としての立場が色濃く出てきています。